Talk Title | 共形場理論に基づく量子重力理論の再構成—演算子形式の観点から |
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Speaker | Seiji Terashima (Kyoto U., Yukawa Inst.) |
Time | – |
Abstract | 共形場理論(CFT)から、反ド・ジッター時空(AdS)内の重力理論をどのように「再構成」できるのかは、ホログラフィーの核心的課題です。なぜなら、通常の量子化を行うには重力理論は様々な問題があるため、AdS/CFT対応が正しければ、CFTという well-definedと考えられている量子系が量子重力を定義する、と考えることができるからです。このtalkでは、まず、場の量子論の基本言語である演算子形式に立脚し、対応関係の「辞書」や超弦理論の知見を事前に仮定せずに、SU(N)ゲージ理論で構成される CFTの低エネルギー・サブセクターのみから重力理論が立ち上がる仕組みを示します。鍵となるのは、(i)大きな N における因子化などの素朴な性質、(ii)保存量と対称性による低エネルギー励起の保護、(iii)共形対称性の表現構造の整合性、の三点です。これらを組み合わせることで、N が非常に大きい時に、CFTのヒルベルト空間の低エネルギー部分空間が AdSの自由場ヒルベルト空間と近似的に等価になることが示せます。つまり、場の量子論から重力理論が創発的に出現することが、超弦理論等を使わなくても理解できます。 さらに重力理論側の局所演算子を CFTの演算子から、どのように具体的に「再構成」できるかを議論します。まず、CFTの primary演算子は、AdS上の重力理論の境界上の局所演算子に対応することが分かります。境界から離れた内側の演算子は、その時空点の光円錐と AdS空間の境界の交点の CFT primary 演算子たちによって表すことができます。つまり、基本的には、bulkの局所演算子はそれを時間発展させることで得られるということです。 最後に、CFT側や重力理論側で、ある部分領域に制限された理論を考えます。この部分領域上の理論は、ブラックーホールや、その horizon近傍同型の Rindler領域を考えると自然に現れます。つまり、ブラックホールの不思議さの源泉である horizonと強く結びついているため、量子重力理論の研究において重要です。特にその場合のCFTと重力側でどの部分領域が対応し、演算子の「再構成」がどのくらい可能なのかは、情報喪失問題等とも関連するはずです。これに関して、非常に大きくても有限のN である効果は、高運動量モードが三点関数などを指数的に増幅し、通常の 1/N 抑制と競合して、重力側に実効的な紫外カットオフ(おおよそ ln N スケール)が現れる可能性が高いことが分かります。これは「プランクスケールまで素直に延長できる」という通常の期待に対する具体的な反例であり、また、正しいと広く信じられているエンタングルメント・ウェッジ再構成やホログラフィック誤り訂正的な解釈には適切な修正が要ることを意味します。 |
Reference(s) |
日本大学理工学部 素粒子論研究室コロキウム
Colloquium Schedule
Talk Title | Quantum Effects for Black Holes with On-Shell Amplitudes |
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Speaker | Katsuki Aoki (Kyoto U., Yukawa Inst.) |
Time | – |
Abstract | 本講演ではホーキング放射を含むブラックホールによる吸収・放射効果を現代的なオンシェル散乱振幅によって記述・解析する手法を議論する。基本となるアイデアはブラックホールを粒子とみなし、その物理過程を量子論的な粒子の散乱振幅によって記述することである。吸収・放射に対応する散乱振幅は系の対称性とブラックホール摂動論の情報を用いることで決定され、ゲージの不定性によらない普遍的なブラックホールの記述を与える。具体的な応用として、ホーキングの熱放射スペクトルが3点過程(ブラックホールの2体崩壊)によってよく近似されることを見る。また本手法を用いることでブラックホールの2体運動に対する量子補正を計算し、ホーキング放射の有無が2体運動へ異なる量子効果を与えることを見る。 |
Reference(s) | arXiv:2509.12111 [hep-th] |
Talk Title | Essential Renormalization Group Equation for Gravity coupled to a Scalar Field |
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Speaker | Nobuyoshi Ohta (Osaka Metropolitan U.) |
Time | – |
Abstract | We study the essential renormalization group equation, in which inessential couplings are removed via field redefinitions, for Einstein gravity coupled to a massive scalar field in the presence of a cosmological constant. We find that perturbatively nonrenormalizable terms can be eliminated due to the cosmological term by field redefinition, in contrast to the case of perturbation around flat spacetime. This means that the Einstein gravity with cosmological constant and scalar fields is nonperturbatively renormalizable. We also find nontrivial fixed points for the Newton coupling and the cosmological term. |
Reference(s) | arXiv:2506.03601 [hep-th] |
Talk Title | 干渉計での単一光子の物理的な非局在の観測 |
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Speaker | Masataka Iinuma (Hiroshima U.) |
Time | – |
Abstract | 単一光子干渉計での波と粒子の二重性は、量子力学誕生以来、長年議論されている量子力学の根幹に関わる問題で、広範囲に渡って関連する問題でもある。この問題にアプローチするために、理論的研究はもとより、遅延選択実験や量子消しゴム、弱測定などの実験が数多く行われてきた。我々は共同研究者のホフマンが提案したフィードバック補償法を応用し、量子測定の物理量の二乗の値の測定に着目することにより、干渉計内部の単一光子の物理現象を観測することに成功した。セミナーでは実験そのもの紹介よりも、これまでの研究の経緯と実験結果の意味や論点について提供したいと考えている。多くの方との議論を通じて、単一光子干渉のより良い理解につながることを期待している。 |
Reference(s) | arXiv:2505.00336 [quant-ph] |
Talk Title | 準備型不確定性関係の新たな展開 |
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Speaker | Gen Kimura (Shibaura Inst. Tech.) |
Time | – |
Abstract | 量子力学の不確定性原理は,古典物理学には見られない特異な性質として広く知られている.その定式化には様々な方法があるが,測定の誤差や擾乱を扱う測定型不確定性関係には解釈の曖昧さが残る.これに対し,複数の物理量が同時に確定的な性質を持ち得ない(すなわちそのような状態を準備できない)ことを表す準備型不確定性関係は,量子力学の確率解釈に基づいて明確な意味を持つ.1927年にKennardがHeisenbergの位置と運動量に関する関係を準備型として定式化して以来,Robertsonはこれを任意の物理量へと一般化し,その本質が物理量の非可換性にあることを示した.この結果はRobertson不確定性関係として知られ,今日でもほとんどの量子力学の教科書に紹介されている.さらに,古典的な相関に由来するトレードオフを組み込んで一般化したSchrödingerの関係式もよく知られている. 本研究では,これらの不確定性関係をさらに拡張し,新たな普遍的関係を導いた.得られた不等式は,等号を達成する物理量が存在することから,最適な拡張であることが確認できる.この関係式は,従来見過ごされていた非可換性に起因する新しい不確定性のトレードオフを明らかにする.興味深いことに,我々の関係は量子ビット系では不等式ではなく等式として成立するため,これ以上改善の余地のない究極的な関係式が得られたことになる. |
Reference(s) |
arXiv:2505.19861 [quant-ph] arXiv:2504.20404 [quant-ph] |
Talk Title | Introduction to complex quantum theories |
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Speaker | Bhabani Prasad Mandal (Banaras Hindu U.) |
Time | – |
Abstract | In this talk, I will present a very basic introduction to non-Hermitian quantum mechanics. In particular, I will show how it is possible to have a consistent quantum theory for Parity-Time reversal symmetric and/or pseudo-Hermitian by modifying the inner product rule. Such theories will have many interesting properties like spectral singularity, coherent perfect absorption, the existence of an exceptional point, Nobel topological phase transition, etc which are not present in the usual quantum theory. Some of these new features, along with possible applications, will be discussed in this talk. |
Reference(s) |
Talk Title | Quantum focusing conjecture and the Page curve |
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Speaker | Yoshinori Matsuo (Nagoya U.) |
Time | – |
Abstract | 量子論の効果によるエネルギー条件の破れのため、蒸発するブラックホールにおいては収束定理が成り立たない。古典的な収束定理に代わるものとして提唱された量子収束予想では収束定理の面積項に物質のエンタングルメントエントロピーを足したものを用いるが、エンタングルメントエントロピーが減少に転じるページ時間以降では量子収束予想は成立しないと考えられていた。この予想が提唱された当時は、ブラックホール時空でエンタングルメントエントロピーの描くページ曲線を再現する方法は知られていなかったが、その後、アイランド公式を用いることでページ曲線が再現できることが明らかになっている。本講演では、アイランド公式を用いて量子収束予想を具体的に検証し、これがページ時間以降でも成り立っていることを示す。 |
Reference(s) | arXiv:2308.05009 [hep-th] |
Talk Title | Quantizations of CFT and Sine Square Deformation |
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Speaker | Tsukasa Tada (RIKEN, Wako) |
Time | – |
Abstract | ユークリッド空間上の2次元共形場理論は、通常、radial quantization によって量子化される。この手法では、原点からの半径方向を時間とみなすことで、共形対称性を明示的に活用する。しかし、量子化は時間発展の定義に依存するため、他の時間の選び方に基づく量子化も理論的に可能である。本講演では、このような新たな量子化手法を概観し、特に我々が dipolar quantization と呼ぶ方法を紹介する。この手法は、共形変換の特定の選択に基づき、新たな時間発展構造を導入するものである。また、統計物理において Sine Square Deformation(SSD)として知られる共形場理論の変形との関係や、ミンコフスキー空間における共形場理論の量子化も議論する。 |
Reference(s) |
Talk Title | 漸近自由理論の低エネルギー極限への高エネルギー展開からのアプローチ |
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Speaker | Hiromasa Takaura (Kyoto U., Yukawa Inst.) |
Time | – |
Abstract | 漸近自由な理論では、物理量の高エネルギーの挙動は計算可能であるが、強結合となる低エネルギーの挙動を理論的に解析するのは困難とされている。このトークでは物理量に逆ラプラス変換を施すことで、低エネルギーの情報を計算可能な高エネルギーの計算と関連づけられることを述べる。特に低エネルギー極限を高エネルギー展開から引き出す手法を提案する。ここではQCDのtoy modelで可解な2次元O(N)非線形シグマ模型を考え、実際に相関関数の低エネルギー極限が正確に引き出せることを示す。 |
Reference(s) | JHEP 10 (2024) 085 |
Talk Title | 5次元時空における球状ブラックホールの唯一性の破れ |
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Speaker | Ryotaku Suzuki (Nihon U., Funabashi) |
Time | – |
Abstract | 4次元時空では位相定理や解の唯一性定理によって、ブラックホールは必ず球形状を持ち、質量や角運動量などの保存量に対応して唯一に定まる。ところが、5次元時空では保存量のみからはブラックホール解が唯一には定まらず、ドーナツ型($S^2 \times S^1$)のトポロジーを持つブラックリングのような非球面ブラックホールが多数存在する。そこでどのような形状の解が存在するかという解の分類問題がこれまで盛んに研究されてきた。 一方、ブラックホールの外部の時空構造についてはあまり着目されていなかったが、近年、従来の単純な球状回転ブラックホールと同じ球状ホライズンを持つが外部に非自明な構造(バブル)を持つブラックホール(capped black hole)が5次元最小超重力理論において導出された[1–3]。このcapped black holeは従来の回転ブラックホールと同じ保存量を持ちうるため、ホライズン面のトポロジーを球面に限定したとしても解が唯一に決まらないことがわかった。さらに、capped black holeの方がより大きなエントロピーを持つパラメータ領域が存在し、そこでは単純な配位を持つ外部時空が不安定化する可能性がある。このような非自明な外部構造を持つブラックホールは他にも無数に存在する可能性があるため、解の分類問題を考える上で今後考慮していく必要がある。本講演では、capped black holeについて、シグマ模型変換を用いた導出の概略と、解の性質について議論する。 |
Reference(s) |
[1] R. Suzuki and S. Tomizawa, Phys. Rev. D 109 (2024) L121503 [2] R. Suzuki and S. Tomizawa, Phys. Rev. D 110 (2024) 024026 [3] R. Suzuki and S. Tomizawa, Phys. Rev. D 111 (2025) 064066 |
Talk Title | 非平衡電子分布がもたらす新奇量子多体現象—準粒子注入により誘起される非一様超伝導状態— |
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Speaker | Taira Kawamura (Nihon U., Tokyo) |
Time | – |
Abstract | 熱浴と接続された非平衡電子系は、駆動力と熱浴への散逸がバランスした定常状態へと緩和する。このとき形成される非平衡電子分布は、一般には熱平衡系におけるFermi分布関数とは異なる関数となる。この非平衡電子分布により、熱平衡系では実現し得ない様々な量子多体現象が生じうることが知られている。 本講演では、まず非平衡電子分布を理論的に記述する手法として、非平衡Green関数法に基づくアプローチを紹介する[1]。具体例として、電圧駆動された金属細線における非平衡電子分布を取り上げる。非磁性不純物による弾性散乱やフォノンによる非弾性散乱の影響を、自己無撞着Born近似の枠組みで取り入れることで、さまざまな散乱領域における非平衡電子分布を適切に記述できることを説明する。 続いて、非平衡電子分布がもたらす新奇量子多体現象の一例として、準粒子注入下の超伝導体で出現する、空間パターンを持つ超伝導状態について紹介する[2]。具体的には、金属電極からの準粒子注入と散逸を考慮した非平衡超伝導体の時間発展方程式を、非平衡Green関数法を用いて導出する。この導出した方程式を用いて、非平衡電子分布が超伝導オーダーパラメータの自発的な空間振動を誘起し、いわゆるFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov状態に類似した超伝導状態が安定化することを説明する。 |
Reference(s) |
[1] T. Kawamura and Y. Kato, arXiv:2503.05141 [cond-mat.mes-hall] [2] T. Kawamura, Y. Ohashi, and H. T. C. Stoof, Phys. Rev. B 109 (2024) 104502 |
Talk Title | Dynamical simulations of colliding superconducting strings |
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Speaker | Takashi Hiramatsu (Nihon U., Tokyo) |
Time | – |
Abstract | 本講演では、超伝導宇宙ひもの数値衝突実験について議論します。超伝導宇宙ひもは、Abelian-Higgsストリングに別のスカラー場が凝縮したものであり、物質場と結合する宇宙ひもを記述する最も簡単な理論模型の一つです。講演ではまず、超伝導宇宙ひもが存在し得る理論パラメータ空間の特定を行い、その後、場の理論シミュレーションを用いて、さまざまな衝突角度および衝突速度における超伝導宇宙ひもの衝突に関する動的挙動を解析した結果を紹介します。さらに、超伝導宇宙ひもネットワークの形成とその時間発展についての考察を行い、加えて、このような宇宙ひもが宇宙論や天体物理学に与える可能性のある影響についても議論します。 |
Reference(s) | arXiv:2312.16091 [hep-ph] |